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新著「税と社会保障の基礎知識 公共経営と社会の仕組み」について

本書は、大学生や社会に出て間もない人たちを対象に、社会人として身につけておくべき知識として、国や地域社会の仕組み、税制度、年金や公的医療保険など社会保障制度についての基礎的な制度解説をその内容としている。

 

将来の社会を担う人材はどのような素養を備えておくべきなのか。もちろん教養や専門知識は生きていく上での武器となってくれる。一方で現在の世情を見る時、個人と社会がどのように関わっているかを正しく認識し、自分自身がその担い手であることを自覚する社会人を育成することもまた必要なのではないかとずっと思ってきた。政治をワイドショーのように眺め批判や嘲笑の対象としてのみ捉えたり、社会の課題や将来のあり方を自分自身の生活とは切り離した別世界の出来事のように捉えがちな傾向から脱し、真っ当な世論を形成できる社会にするためには、個人がその人生において社会からどのような受益があり、それに対して社会人としてどのような責務を担うのか、個人と社会との関係を正しく認識する社会人を増やすことがまず必要なのではないか。高校までの学びのなかでは、国の統治機構や地方自治制度など社会の基礎的な仕組みについての知識を有していない学生が多いことも気にかかっていたことである。

 

「これからの社会、そして自分自身の将来について、明るいイメージと暗いイメージのどちらが大きいですか?」大学で教壇に立つようになってから毎年講義の冒頭に同じ質問をしてきた。どちらかというと暗いイメージが大きいという学生が多いのはずっと変わらない。ならばその理由はと問うと、多くの学生が、政治がぱっとしないことや、少子高齢化が進んでいることなどを挙げる。果たして自分たちが歳をとる頃にちゃんと年金がもらえるのか、医療費が多くかかって老後の生活は大丈夫か。人口減少と長寿化が進む日本において、自分の将来に漠然とした不安を抱える若者は多いようだ。

 

国や地域社会という公共的な社会は、一人ひとりの国民や住民の参画によって運営されている。そして社会人になるということは、社会に出て働くということと同時に、国や地域社会の担い手になるという意味を持っている。公共的な社会はそれを運営するための仕組みを有し、個人では得ることのできない様々な公共サービスを提供している。一方、担い手である社会人は税や保険料を支払ってその財源を負担しなければならない。つまり社会人になるということは、公共的な社会の運営に参画すると同時に、社会との間で受益と負担の関係を持つことでもある。

 

社会に出て会社から給料を受け取ると、額面給与と実際の支給額との差に驚く人も多いのではないだろうか。毎月引かれている税金や社会保険料について、どのような種類のものがどういう仕組みのもとに引かれているのかを正確に知らないままに過ごしている社会人は案外多い。税制や社会保障制度は仕組みそれ自体が複雑であり、加えて改正が頻繁に行われることから、特定の分野を深く正しく解説する書籍は存在するものの、幅広い分野を浅く正しく解説するものは少ない。本書は専門知識ではなく、社会人として必要と考えられる知識を出来るだけ平易に解説することを目指した。当初の想定よりもはるかに時間と労苦を伴う作業であったが、複雑な制度を平易に、かつポイントを絞って正しく解説することがいかに難しいかを思い知ったところである。

 

自らが担い手として参画する社会の仕組みや社会保障制度に関する知識、その対価として負担する税制度の知識を得ることは、社会人としての自覚に加え、社会生活や将来について一定の安心感を与えてくれるとともに、時として自分自身を守る武器にもなってくれるであろう。そして社会に対する正しい認識を持った社会人が増えることによって、社会の将来が少しずつ明るいイメージに変わっていくことを願っている。