前札幌市長、上田文雄氏が亡くなった。財政局長として三年間お支えした上司であるとともに、これまでめぐり逢うことの無かったこれからの社会にとって理想と思える政治家像をその姿から見せて頂いた、尊敬する方であった。
市役所出身者が続いていた札幌市役所に、稀有な再選挙を経て弁護士出身の民間市長として入った上田市長。市長就任当初はいろんな軋轢があったと伺っている。そこから3期12年の市政だった。豪放磊落な風貌と親しみやすい人柄、そして何よりも一貫した揺るぎのない芯のある政治家だった。
これまで仕えたリーダーとは全く違った上田市長。その市政の軸は一貫して「市民自治」だった。そしてその背景には法律家としての憲法観があったように見えた。
地方公共団体の首長には行政組織の長としての側面と、様々な人々の想いや利害を受け止める政治家としての側面がある。昨今では行政の長としてのウェイトが高くなり政治家としての機能が低下しているのが全体的な傾向であると思う。しかし行政だけが社会の課題を解決できる時代は既に終わっている。様々な立場、様々な境遇にある人や組織を一定の方向性にまとめていく力がこれからの政治家には求められる。そしてそれは調整能力よりも、ゆるがない信念とそれを分かりやすく伝え、共感を得ることの出来る力である。
一貫して「市民自治」を訴え、市民にも「共に悩み、共に解決する」ことを求め続けた上田市長。これからの政治家に必要な、しっかりとした理念を持った理念型政治家であった。その人生に心から敬意を表したい。