日本の政府IT調達をめぐっては、ベンダーロックインや非効率性が長年指摘されている。そして、その要因としては、主に行政側の調達能力の問題があるとされる。しかし、それよりも大きな要因があると考える。それは日本がWTO政府調達協定(GPA)を過剰に尊重し、しかも時代更新をほとんど行わないまま運用し続けているという点である。
GPAはWTO協定の中でも政府調達に特化した枠組みであり、内外無差別や透明性について、一般的なWTOルールよりも一段厳しい規律を課している。その成立は1990年代で、前提となっているのは物品調達や従来型の役務契約だ。クラウド、SaaS、アジャイル開発、API連携といった現代のIT調達を想定していたとは言い難い。
IT環境が30年近くで劇的に変化した現在でも、GPAの基本構造はほとんど変わっていない。それに依拠する会計法令も同じである。確かにWTO協定自体は多国間のものであり改変には多くのハードルが存在している。問題は日本がこの「更新されにくい国際ルール」を、国内IT調達において最も厳格な形で内面化してしまっていることだ。
日本のIT調達では、仕様策定段階で「中立性」が過度に重視される。特定の技術思想やアーキテクチャを要件として明示することは忌避され、抽象的で網羅的な要件が並ぶ。その結果、クラウド前提やモダンな設計を前提とする事業者は入りにくく、既存の大型SIやレガシー構造に適応したプレイヤーが有利になる。公平性確保やWTO対応を意識するあまり、結果として競争が形式化し、選択肢が狭まっている。
「WTO違反と指摘されるかもしれない」という曖昧な不安が先行し、例外規定はほとんど使われない。GPAは本来、国際交渉の文脈で使われるルールであるはずだが、日本では会計リスクを避けるための国内規範として固定化してしまっている。
IT調達はもはや単なる業務委託ではなく、行政サービスの質、データの主権、さらには国家や自治体の存立自体に直結する基盤である。にもかかわらず、30年前の調達思想を前提に、「無難であること」だけを基準に制度を守り続ければ、日本の行政ITは構造的に劣化していく。問題はWTO協定よりも、厳格なルールを時代に合わせて直そうとしない姿勢にある。
時代に適合したルールの見直しは社会のあらゆる分野で必須である。劇的な環境変化の下にありながら、時代遅れの制度によって課題を大きくしているIT調達制度はその象徴的存在とも言える。