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公共とは何か −公共社会と社会システム−

公共施設、公共交通、公共政策、公共事業など、「公共」という言葉は様々な場面で使われている。しかし、その意味は必ずしも明確ではない。公共を行政活動として捉える考え方や、「みんなの利益」を意味する概念として理解する考え方も広く存在している。

 

しかし、人口減少、少子高齢化、価値観の多様化、デジタル化など、社会を取り巻く環境が大きく変化する中で、公共を行政活動や個別政策のレベルだけで理解することには限界がある。なぜなら、私たちが現在直面している課題の多くは、個別の政策や制度を超えて、社会そのもののあり方に関わる問題だからである。

 

そのため、公共を社会システムの視点から捉え直すことが大切だと考える。公共は社会システムによって生み出されるものではない。むしろ社会システムは公共社会の内部に存在し、その維持と発展を支えるために形成されたものである。この視点から公共と社会システムとの関係を整理することによって、人口減少社会における制度改革や社会システムの再設計を考えるための基礎的な視座を提示することができる。

 

公共については様々な理解が存在する。

 

第一に、公共を行政活動として捉える考え方である。この立場では、公共とは国や地方自治体が提供するサービスや政策を意味する。道路整備や消防、福祉、教育などがその代表例である。

 

第二に、公共を「みんなの利益」として理解する考え方がある。個人の利益に対して、社会全体の利益を公共とみなす考え方であり、政治学や行政学においても広く用いられている。

 

第三に、市民活動やボランティア活動、地域コミュニティによる相互扶助などを公共と捉える考え方もある。近年では「新しい公共」という概念のもとで、このような活動の重要性が強調されてきた。

 

これらはいずれも一定の妥当性を持っている。しかし、いずれも公共の一側面を説明しているに過ぎない。

 

そもそも公共とは何のために存在するのだろうか。

 

行政活動も、公共サービスも、市民活動も、それ自体が目的ではない。それらはすべて、人々が社会の中で共同して生活するために存在している。つまり公共の本質は、行政や政策ではなく、人々が共同して生きる社会そのものにある。

 

公共を理解するためには、まず社会そのものに着目する必要がある。

 

人間は一人では生きることができない。食料を生産し、住宅を建設し、教育を行い、安全を確保し、医療を提供する。そのすべてを一人で行うことは不可能である。私たちは他者との協力によって生活している。このような共同生活は家族から始まり、地域社会へと広がり、さらに国家という大きな共同体へと発展してきた。

 

私たちは日々その存在を意識することは少ないが、道路や鉄道を利用し、企業が提供する商品やサービスを購入し、病院や学校を利用しながら生活している。こうした生活の基盤は、多くの人々の協力によって支えられている。

 

このような人々の共同生活の全体が「公共社会」である。公共社会とは、人々が共同して生活し、相互に依存しながら存在している社会そのものである。

 

公共社会は政治や行政によって作られるものではない。政治や行政は公共社会の一部である。企業も、NPOや地域コミュニティも公共社会の一部である。

 

公共社会が先に存在し、その内部に様々な組織や制度が存在している。したがって、公共を行政活動や公共部門に限定して理解することは適切ではない。公共とは、人々が共同して生きる公共社会を示す概念なのである。

 

公共社会が成立するためには、様々な社会的機能が維持されなければならない。安全の確保、資源の配分、教育、医療、福祉、経済活動、紛争解決など。これらの機能を支えるため、人類は長い歴史の中で様々な制度や組織を形成してきた。それが社会システムである。

 

社会システムとは、公共社会を維持するために形成された機能的な仕組みの総体である。

 

政治システムは社会の意思決定を、行政システムは公共サービスの提供を、市場システムは財やサービスの供給を担っている。また教育システムは知識や価値観の継承を、医療システムや福祉システムは安全な生活の保障を担う。これらはそれぞれ独立して存在しているのではなく、相互に関連しながら公共社会を支えている。

 

ここで重要なのは、社会システムは公共社会の内部に存在するという点である。しばしば制度や組織が社会を構成しているかのように語られることがあるが、むしろ社会システムは公共社会を支えるために形成されたものと理解できる。

 

公共社会が存在するからこそ社会システムが形成される。公共社会における人間の生活を維持していくための様々な機能を担うのが社会システムであり、社会システムは、公共社会の一部であるとともに、その維持と発展に奉仕する存在である。

 

戦後日本の社会システムは、人口増加と経済成長を前提として構築されてきた。地方自治制度、社会保障制度、教育制度、インフラ整備の仕組みなど、多くの制度は拡大する社会を前提として設計されている。

 

しかし現在、その前提は大きく変化している。人口減少が進み、高齢化が進展し、価値観は多様化している。デジタル技術の発展によって社会のあり方も変わりつつある。個々人の生き方、暮らし方にも変化が生じてきた。

 

こうした環境変化の中で、公共社会と既存の社会システムとの間にずれが生じている。

 

本来、社会システムは公共社会を支えるための手段である。しかし現実には、制度や組織の維持そのものが目的化することが少なくない。行政組織を維持すること。既存制度を維持すること。予算規模を維持すること。施設を維持すること。

 

こうした発想は、しばしば公共社会そのものの変化を見失わせる。

 

人口減少社会において必要なのは、個々の制度を維持することではない。公共社会を安定的に継続させることである。そのためには、社会システムを固定的なものとして捉えるのではなく、環境変化に応じて継続的に見直し、再設計していく必要がある。

 

そのため社会システムは、常に、その時代の公共社会への貢献という観点から評価されなければならない。

 

そして社会システム研究の目的もまた、制度そのものを研究することではなく、公共社会の持続可能性を支える仕組みを探究することにある。

 

個別政策において制度を改革する目的は、単に生じている課題を解決するために制度を変えることではない。変化する公共社会に適応するよう、社会システムと公共社会との関係を再設計することである。

 

公共社会を起点として社会システムを捉え直すことは、これからの個別制度の改革のみならず、人口減少社会における社会システム再設計の出発点となる。